「えっ、スズメバチを食べるって本当?」
そんなふうに驚いた方も多いかもしれません。
確かに、スズメバチと聞けば刺される危険があり、怖い虫というイメージが先行します。
でも、ここ長野県では、そのイメージを覆す驚きの食文化が受け継がれてきました。
主役は「蜂の子」。
これはスズメバチの幼虫やサナギのことを指し、長野県では特に ※地蜂(ジバチ)=クロスズメバチの巣から採取して、古くから貴重な栄養源、そしてごちそうとして親しまれてきたのです。
今回はそんな長野の昆虫食文化にスポットを当て、なぜスズメバチを食べるのか、どんな風に料理されているのか、リアルな食体験の世界へご案内します。
※「地蜂」とはクロスズメバチの通称で、スズメバチ科に属する蜂です。体は黒地に白い横縞が入っており、一般的なスズメバチよりも性質は穏やか。人が不用意に刺激しない限り、ほとんど攻撃してくることはありません。
蜂の子とは?スズメバチの幼虫とサナギが主役の郷土食
「蜂の子」とは、スズメバチの巣の中で育っている幼虫やサナギのことを指します。
長野県では特にクロスズメバチの幼虫が主に食用とされており、その巣は地中に作られます。
このため、巣の採集には経験とコツが必要。
地域のベテランたちは、毎年秋になると蜂の子採りに山へと入ります。
この蜂の子は、長野県では高級な食材として扱われることもあり、瓶詰めされた甘露煮はお土産としても人気があります。
柔らかく、ほんのり甘みのある味わいは、初めてでも驚くほど食べやすく、「海老のよう」と表現されることもあります。
伝統の技「スガレ追い」:蜂の巣を探す知恵と工夫
蜂の子を食べるには、まず巣を見つけなければなりません。
そのために使われるのが、「スガレ追い」と呼ばれる伝統的な手法。
スガレとはクロスズメバチの方言名です。
やり方は実にユニーク。
まず、捕まえた働き蜂に細い真綿を糸状にして目印を付け、それに肉片を括りつけて放ちます。
餌を持ち帰る習性を利用して、蜂の飛ぶ方向を追いかけていくと、巣の位置がわかるというわけです。
現代のGPSとは真逆の、人間の目と感覚を頼りにしたナビゲーション。
これぞ“アナログの極み”ですが、これがまた精度が高いのです。
蜂の飼養という新たな文化
近年では、野山で巣を探すだけでなく、自宅の庭先などでクロスズメバチを「飼養」するケースも増えてきました。
蜂の巣は10段以上になることもあり、部屋(育房)は1万個以上にも及びます。
特に巣の初期段階で採取した女王バチを保護し、定期的に餌を与えることで、巣を意図的に育てることが可能です。
このように管理された環境で育てられた蜂の子は、品質も安定しており、地元の直売所などでも販売されるようになりました。
蜂の子の食べ方いろいろ:伝統料理から創作料理まで
蜂の子は、そのままでも十分に美味しいですが、長野ではさまざまな調理法で楽しまれています。
以下に主な料理法を紹介します。
蜂の子飯
炊きたてのごはんに甘辛く味付けした蜂の子を混ぜたもの。
味噌や醤油ベースのタレとよく絡み、見た目以上に上品な味わい。
甘露煮
蜂の子を砂糖と醤油でじっくり煮詰めた保存食。
瓶詰めで販売されることも多く、お土産としても人気。
油いため
生の蜂の子を油で炒めて、塩こしょうで味付け。
シンプルながらも噛むほどにうま味が広がる一品。
餅・寿司
つきたての餅に混ぜたり、酢飯に蜂の子をあしらった「蜂の子寿司」も珍味好きにはたまりません。
蜂の子の栄養価:高タンパク・低脂肪のスーパーフード
蜂の子は見た目に反して栄養満点。高タンパク・低脂肪で、ビタミンB群やミネラル、アミノ酸が豊富に含まれています。
しかも、カロリーは控えめなのに、滋養強壮効果があるとして古くから重宝されてきました。
栄養価比較表(100gあたり)
食材 | タンパク質 | 脂質 | 特徴 |
---|---|---|---|
蜂の子 | 約16g | 約4g | 高タンパク・低脂肪で栄養価が高い |
牛ひき肉 | 約17g | 約20g | 脂質が多く、カロリーが高め |
木綿豆腐 | 約7g | 約5g | 植物性たんぱくでヘルシー |
このように、動物性タンパク源の中ではヘルシーでありながらも栄養バランスに優れている点が蜂の子の魅力です。
スズメバチの成虫も食べる!?驚きの食文化
実は、長野県では蜂の子だけでなく、スズメバチの成虫も食べられています。
見た目に少しインパクトはありますが、成虫を素揚げにすると、エビのようにカリカリで香ばしく、臭みもありません。
地域のイベントでは「スズメバチの唐揚げ」が提供されることもあり、観光客からは驚きの声とともに好評を博しています。
スズメバチ酒という刺激的な一品
もうひとつ注目したいのが、「スズメバチ酒」。これは、スズメバチの成虫を焼酎に漬け込んだもので、強壮作用があるとされ、特に冬場などに珍重されます。
見た目は少々迫力がありますが、地元の人々にとっては滋養強壮のお守りのような存在でもあります。
蜂の子だけじゃない!長野県の昆虫食文化
長野県は、日本でも屈指の昆虫食文化が根づく地域です。蜂の子以外にも、以下のような虫たちが食べられています。
イナゴ
稲刈り後の田んぼで捕まえて、甘辛く煮つける「イナゴの佃煮」は、長野の家庭料理の定番です。
ザザムシ
川の底に棲む水生昆虫で、採集にはコツが必要。
佃煮にして食べるとクセがなく、ビールのお供にも最適です。
カイコ(蚕)
蚕のサナギはタンパク質が豊富で、乾燥させて炒めたり、煮物の具として利用されます。
これらの昆虫は、農業が盛んな長野県において、貴重なたんぱく源として、そしてごちそうとして食べられてきました。
サステナブルな未来へ:今こそ見直される昆虫食
現在、世界的に環境問題や食糧不足が深刻化する中で、昆虫食が「地球にやさしい未来のタンパク源」として再評価されています。
長野県のような地域で長年続いてきた昆虫食の文化は、今まさに注目を集めているのです。
昔ながらの知恵が、サステナブルな社会のヒントになるかもしれません。
まとめ:驚きと誇りの詰まった長野の食文化
長野県の蜂の子文化は、単なる珍味ではなく、自然と共生し、知恵を受け継ぐ生きた文化です。
スズメバチを追い、育て、料理して、食べる!
そこには「命をいただく」ことへの深い敬意があります。
見た目や先入観にとらわれず、一度体験してみれば、新しい発見がきっとあるはずです。
昆虫食が注目される今だからこそ、長野のこの豊かな文化を改めて見直してみませんか?